家づくり

自宅にもスロープは付けるべき?|スロープ設置のメリット・デメリットを解説!

自宅にスロープは付けた方がいいのでしょうか?ショッピングモールなどではよく見られるスロープですが、個人の自宅に付いていることはまだ珍しいので、何か失敗をしないか不安になりますね。ここでは、自宅へのスロープ設置のメリット・デメリット、設置する際のポイントについて説明します。

自宅にスロープは必要なのか?

日本では、公共施設や商業施設などのバリアフリー化が進められており、段差のない通路であるスロープは身近な存在になりつつあります。スロープがあれば、車椅子の方や足が弱い方などが、段差に邪魔されることなく移動できます。自力での歩行が困難な方にとって便利な存在であるスロープですが、個人宅にも導入した方がよいのでしょうか?自宅スロープの必要性について見ていきましょう。

高齢化によって需要は高まっている

日本では、総人口に対して占める高齢者の割合が年々増加を続けています。高齢者を介護するご家族自身もまた高齢者である「老老介護」のケースもあります。介護する人が今はまだ若くても、やがて高齢者になったときに歩行が困難になることもあるでしょう。こうした状況を加味すると、自宅スロープの導入などにより住居をバリアフリー化して、車椅子などの人も自力で移動しやすい環境を用意しておくことは、理に適った考え方だと言えます。


ケガの防止の効果も

スロープを設置することで、転倒によるケガ防止の効果も期待できます。たとえ歩行に関して何のハンディキャップもない人でも、夜中や時間がなくて慌てているときなど、階段で転んでしまうリスクは常にあります。これに対して、スロープであれば、階段と違って、段差を踏み外して転ぶ心配はありません。このようなケガ防止の効果が期待できることは、歩行器や杖を使っている人がいるご家庭に安心感をもたらしてくれるでしょう。また、スロープは階段や段差に比べ、足への負担が少ないため、上り下りによる疲労も軽減されるという効果も期待できます。

スロープ設置のメリット・デメリットについて

自宅スロープのメリットとデメリットについて説明します。歩行に困難を抱える方の移動をスムーズにしてくれるメリットがある一方で、設置の難しさやコストに伴うデメリットがあります。

メリット

自宅スロープの設置により段差が解消されることで生じるメリットは、心理面やライフスタイルの変化です。スロープがあると、車椅子の利用者は、介助者の手を借りずとも移動することができます。これにより、ちょっとした移動でも助けをお願いしなければならないことへの申し訳なさなどの心理的負担から自由になるでしょう。また、段差がなければ、車椅子の人も、それ以外の歩行にハンディキャップがある人も、体力を消耗せずにスムーズに移動ができます。玄関のスロープから、気軽に家の外に行けるので、出かけることへの心理的なハードルが少ないです。出かけることが億劫にならずに済むので、自宅に引きこもりがちになることなく、アクティブにお出かけする習慣が身につきやすくなります。

デメリット

自宅スロープ設置には、十分なスペースの確保が必要です。スロープはとても緩やかな斜面なので、十分な長さがなければ必要な高低差を生み出すことができません。長さだけでなく、車椅子の脱輪のリスクを減らすために幅も広めにすることが望ましいです。このように、スロープを付けるためには、敷地に十分なスペースがあることが必要です。玄関先の広さが足りない場合は、その分、庭などが狭くなってしまうこともあります。

もう一つのデメリットは、スロープ設置工事の費用の問題です。素材やサイズによってかかる費用は変わってきますが、より安全な設計にしようと思えば、それだけ高くつきます。


スロープ設置時のポイント

スロープを家に設置する際のポイントを説明します。設置時に考える必要がある勾配、幅、素材の3つの要素について見ていきましょう。

勾配を考える

スロープの傾斜をどのくらい緩くとるかの指標を勾配と呼びます。勾配には例えば、1/81/121/15などがあり、水平方向にどのくらい進めばどのくらいの高さを上がることができるかを表しています。例えば勾配が1/15のスロープの場合なら、高さを1cm上るためには、水平方向に15cm進む必要がある、というようなことです。勾配の分母の数字が大きいほど傾斜は緩くなり、車椅子の使用者にとって自走するのが楽になります。

勾配には基準が定められていて、屋内では1/12、屋外では1/15となっています。基準よりも急な勾配にする場合は、手すりの設置が必須です。車椅子で自走する場合の限界は1/12とされていますが、使用者の体力を考えてそれより緩い勾配にした方がいいケースもあるでしょう。勾配が緩いほどスロープの長さは長くなりますので、その分、広いスペースを確保しなければなりません。敷地のスペースが足りない場合などには、スロープを折り返したり、カーブさせたりすることで十分な長さを確保することもあります。

幅を考える

バリアフリーに関する基準を定める「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」によると、車椅子が通過できるのに必要な幅は80cm、車椅子使用者が通行できるために必要な幅は90cmとされています。そのため、スロープの幅は最低でも90cm以上は確保する必要があります。ただし、脱輪のリスクもあるため、安全確保のためになるべく余裕をもたせるべきです。

多数の人が利用することが想定される建物では、人と車椅子がすれ違うことができる150cmという幅が基準となることもありますが、個人の住宅であれば、そこまでの必要はありません。可能であれば、車椅子で通行しやすく、人が横を向けば車椅子とすれ違うこともできる幅であるとされる120cm以上を確保しておくとよいでしょう。ただし、手すりを設置する場合はその分実質的な横幅が狭くなってしまうので、少し広めにとることが望ましいです。

素材を考える

スロープの素材には、下記のようなものがあります。

・アスファルト
・タイル
・コンクリート
・レンガ
・石材

素材を選ぶポイントとしては、デザイン面やメンテナンス性もありますが、それら以上に、安全性を第一に考えて選ぶべきです。雨で濡れた時に滑りやすくなる素材だと、転倒事故のリスクが高くなります。濡れても滑りやすくならず、水はけもよい素材を選ぶことが大切です。また、色や形状などが視覚的に認識しやすいことも事故防止のリスクを減らしてくれるでしょう。

タイルはメンテナンスが容易な反面、雨の際に滑りやすくなるというデメリットがあります。同様に石材も雨で滑りやすくなります。一方、アスファルトやコンクリートは、滑りにくくするための加工や工事方法があります。例えば、「インターロッキング」は、コンクリート製のブロックを互いに噛み合わせて配置する方法です。荷重分散しやすい構造で耐久に優れているだけでなく、水はけがよく濡れても滑りにくい、色のバリエーションが豊富である、比較的安価であるといった特長があります。この他、コンクリートが固まり切る前に水で洗うことで、原料の砂利などを表面に露出させる「洗い流し」という方法も、滑り止めの効果を生みます。

自宅スロープ設置時は注意点を把握し検討しよう

以上、自宅スロープを設置すべきかどうか、必要性やメリット・デメリット、設置時のポイントについて解説しました。ますます高齢化が進む日本社会において、バリアフリー化は必須となっています。こうした中、個人の住居においても、スロープの設置など、設備の充実化を考えるのはとても自然で合理的なことです。自宅スロープの大きなメリットは、歩行が困難な人がストレスなく暮らせるようになるということです。その一方で、設置の際に多くのスペースが必要になる、高い費用がかかるなどのデメリットも存在します。

設置時は、安全性などの観点からスロープの勾配や幅に持たせたい条件を考え、スペースの問題との兼ね合いを検討します。また、素材には色々な種類があるので、滑りにくさや水はけのよさ、視覚的な認識のしやすさなどの安全性の観点を最優先しつつ選択します。このように、自宅へのスロープ導入の検討の際には、メリット・デメリットと注意すべきポイントをおさえつつ考えるようにするとよいでしょう。

監修 一級建築 代表取締役 原 康人氏

株式会社三建コンサル

個人・法人のお客様から土地や建物に関するご相談(空き家、相続、土地建物の売買など)を伺い、ご提案をしながら一緒に解決策を見出しています。建築設計はもちろん、土地の測量、農地転用や市町村の申請書類作成も行っており、「土地から建物の相談役」として皆様のお役に立てるよう努めています。

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